lucciora’s diary 蛍日記

共感する魂を求めて

ドラマ『ブラッシュアップライフ』…死のほうから生を見てみたら

「いま、ぼくのやっている仕事というのは、死の方から生を見る仕事だと言った方がいいですね。みんな、自分の生を延長するほうからばっかり言っとられるけど、ぽっと向こう側から見られたら、かなり変わるわけです。」

河合隼雄ブッダの夢」より)

 

ドラマ『ブラッシュアップライフ』が面白い。

テレビが無いのでTverで見ています。安藤サクラさん演じる主人公は、不慮の交通事故で亡くなってしまうものの、もう一度同じ人間に生まれ変わって “人生2周め”(そして”3周め”も…) をやり直す…。というお話し。

(以下、ネタバレあります)

第1話の中盤までは、平穏すぎる日常のドラマという感じでちょっと退屈してしまうのだが、麻美が事故で亡くなってしまってからの”やり直しの人生”の展開で、1周目の平穏すぎる日常が生きてきて、1周目では気づかなかった些細なトピックがどんどん展開していくのでかえって「あー、そこか」とインパクトを受けつつ見ている。

麻美がとにかくドライというか冷静で、死んでしまっても、「あ、死んだ?」くらいなリアクションなので、生きる・死ぬをあつかう内容のドラマでありながら、重たく深刻にはなりすぎない。人生にまつわる沢山のテーマがシンプルに浮き彫りになってきて秀逸だ。

 

ドラマでは、主人公は一旦亡くなって、来世の案内人に「この次はアリクイ(または前世のやり直し)」と告げられて、前の人生のやり直しをすることになるのだけど、麻美が人生をやり直すたびに(今、3周目)、ちょっとずつ、でも次第に大きく変化していって、麻美の人生やパーソナリティ自体が”ブラッシュアップ”されて、生き生きとしていく様子はなんだかすごい。爽快感がある。

 

1回目の人生では役所の案内係をしていて、いつも役所に来た人からのクレームに辟易して、ランチタイムは同僚たちと愚痴大会だった麻美が、

2回目の人生では薬剤師になって祖父を救い、友達に重要な情報を伝えたり、

3回目の人生では好きだったドラマに関わるテレビ局に入社し、憧れの俳優さんと大胆な会話までしたり…してしまう。ボタンの掛け違い、ならぬ、ボタンのかけなおし。

 

一方で、ドラマを見た後もなんとなく心に残る場面もあって…

1回目に死ぬ前に仲良し3人組とカラオケルームに行った時に、受付でミュージシャンを目指していた高校時代の友人「ふくちゃん」と再会する場面がある。

1回目の人生で麻美や3人組が持っていた(人生で何が大事なのかという)価値観があって、

2回目の人生では、ふくちゃんの人生を彼女の考える「より良い方に」変えようと、しばし計画するものの、いやいや、もしかしたら自分の価値観も正しいとかではなくて、彼の人生の「失敗」と見えることや、別れや出会いも、やはりそれで「正解」なのかもと考え直して、結局は何も言わなかったシーンがあってとても共感してしまった。

何が幸せとか、何が良いかということの基準なんて、決まっていないという自由が心地よかった。

仲良し3人組という設定がまた、私自身も中学時代の友達と3人組で今でも仲良くしているので、ドラマの会話がリアルかつ「あるある」で笑ってしまう。そういうある種どうでもいい会話の中にこそ、彼女たちそれぞれのパーソナリティがよく出ていて憎めないのである。

 

…死のほうから生を見てみたら

「ぽっと向こう側から見られたら、かなり変わる」

初めに引用した心理学者の河合隼雄さんの言葉。河合さんの本が好きで何冊か読んでいるが、「死の方から生を見る」というのは河合さんの一つの視点だったように思う。

 

生の渦中にあると目の前のことしか見えなくなってしまう。

死の方から生を見る、という提案は、生きている証でもある「感情や欲望の波」から、自分自身の意識を遠くへ置いてみることで、生全体の姿を見ることを可能にするのではないだろうか。私も折に触れて、自分が死んだとしたらどうなのだろうと想定して、そちら側から生を覗いてみる視点を持ちたいと思っている。

 

このドラマを見たとき、ちょっとそれに似ていると思った。一見、突拍子もない設定で十分にエンターテイメント的要素もありながら、回を重ねるごとにじわじわとストーリを噛みしめているような。

死とか魂とか死後のことについて、日頃あえて話したりはしないけれど、こんな軽い語り口でなら語ってみたいかもしれない。

 

このドラマでは、死んで再生するたびに主人公の人生がブラッシュアップされていくけれど、この先どうなっていくのか…楽しみだ。

最終的にはこれが全部夢だった、という設定だったりして? それは無いか。

 

人生のやり直しでなくても、今の人生でも気づけることはまだまだ沢山あって、人生はそこからどんどん変わってくるのかも、そんなことを感じさせてくれるちょっと楽しみな時間になっている。